夏目知幸 『おれのすべて / いいとしなのにね』 (7"EP/JPN/ ROCK)
夏目知幸は、東京で活動するロック・バンド、シャムキャッツのフロントマン。ソロ名義としては、これまでCDRとカセットを自主制作で販売していたが、初のアナログ盤7インチは京都のレーベル〈セカンド・ロイヤル〉からのリリースとなった。シャムキャッツが最新2作において、アンサンブル、サウンドともにスマートな洗練を果たしたのに対し、このアナログ盤に収録された2曲は、朴訥でふぞろい、ハンドメイドな手触りが魅力な、まさにローファイ・ポップの愛すべきレコードとでも言うべき作品となっている。ここ最近の活動において、こちらがとろけてしまうほどの色気を纏っている夏目の歌声は、今盤に収録された2曲でも実に艶やか。その吐息でさえ薄紅の色彩を帯びているようだ。Aサイド"おれのすべて"は、ムーディな音色を持ったギター、チープなSF映画のSEを思わせるキーボードがまどろみを作り出す、サイケ・ムードのダウンテンポ・バラッド。かわいいあの子と今はただ眠ってたいだけというリリックの背後に、現在の世界に渦巻く不穏なムードを透かした、2015年ならではのスラッカー・ソングとなっている。そして、Bサイドは、カセット発表時の生ドラムとは異なり、異様に音量の大きな打ち込みのビートが配された"いいとしなのにね"。大人になってからしばしの時を経たと思しき女性が、音楽や夕日にいまだ心動かされてしまうという自らのナイーヴさを自嘲気味に綴ったこの曲は、"おれのすべて"への女性からの返歌と捉えることもできよう。非常に気の利いた、裏表の2曲となっている。エンジニアとミックスは、今はなきミュージックオルグのPAにして、多くのインディ作品を手がける馬場友美が担当。宅録ならではの人懐っこい温度感を残しながら、各楽器の出すべき音域を輪郭はっきりと打ち出すという、的確な設計が、極めて立体的な音像を作り出していることにも注目したい。
(text by 田中亮太)
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2015.04リリース
(text by 田中亮太)
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2015.04リリース